場所細胞と格子細胞
2014年のノーベル医学・生理学賞は海馬にある「場所細胞」を発見したイギリスのオキーフ博士と嗅内皮質にある「格子細胞」を発見したノルウェーのモーザー夫妻に与えられた。
ラットが特定に位置にくると海馬の中の特定の細胞が発火し、場所ごとに発火する細胞が異なり、動物の空間把握が行われていることがオキーフ博士により発見されて「場所細胞」と名前が付けられた。
また、ラットが特定の一つの場所ではなく、六角形の格子点のいずれかに来た際に発火する嗅内皮質の中の細胞がモーザー博士により発見されて「格子細胞」と名前が付けられた。
この格子細胞と場所細胞は密接なネットワークを組んでおり、格子細胞が働いて発火すると嗅内皮質より海馬に信号が伝達されて海馬の場所細胞が発火することが分かって来た。
この脳内の働きは人間にも同様に行われており、人間は過去に通った道筋を覚えていて、地図を見ないでも同じ道を繰り返し通ることが可能で、同時にその道筋を通った時間、空間、嗅覚などの五感を思い出せるのは「場所細胞」の働きによるものである。
この為に日々新しい道を通り、新しい時間、空間、五感の経験を積み重ねることにより人間の記憶をつかさどる海馬を強化することが出来る。実際にロンドンのタクシー運転手の海馬は他の職業の人間に比べて大きいことが報告されている。
代表的な記憶術として道筋に沿って記憶したい事実を順番に感情を伴った事実として記憶すると思い出しやすいとされているのも場所細胞と関係があるかも知れない。
これらの事実は最近大きな問題として取り上げられているアルツハイマー病などの認知症対策に重要な意味を持つ。脳内に蓄積されたアミロイドβにより脳が縮小し、海馬の働きが衰えて記憶が戻らない、道筋を思い出せないなどの特徴的な症状は海馬を強化することにより予防、改善が出来ると思われるからである。
歩きながら計算をする、鼻からインスリンを吹き付けて嗅覚を刺激することなどが認知症の改善に有効とされているが、毎日新しい道を歩くこと、その道筋に於いて起きたことを記憶することは海馬の強化に有効である。
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