海馬・空間記憶・路地歩き
1.米国の動き:米国政府は大規模プロジェクトとして「ヒトゲノムプロジェクト」に続き、「ブレイン・アクティビティ・マップ」の作成を計画している。これは脳が深いレベルでどう機能しているかを調べるもの。また、国立衛生研究所(NIH)は神経細胞とシナプスのつながりを研究する「ヒト・コネクトーム・プロジェクト」に資金を拠出している。(Wall
Street Journal)
これらは脳疾患の治療だけでなく、脳の働きを学んでAIなどにも役立てることを目的としている。
2.脳と認知症
認知症の初期症状としては、嗅覚が鈍くなり料理中に焦げても気が付かない、冷蔵庫の野菜が腐っても分からない。若いころの思い出など長期記憶は残っているが、昨日・一昨日の行動など短期記憶が思い出せない。自宅への道筋が分からなくなり帰宅出来ないなど空間記憶の低下が目立つ。
3.嗅内皮質・海馬の役割
嗅内皮質の役割としては嗅覚、海馬の役割としては視空間記憶と短期記憶がある。
視空間記憶に際しては場所細胞、格子細胞の記事で述べたように海馬の場所細胞と嗅内皮質の格子細胞が密接に連携して、現在位置の特定、頭部方向細胞による進行方向の特定、格子細胞による距離感把握などによりナビゲーションの働きを行う。場所細胞と格子細胞、また、脳には時間細胞があり、時間細胞や場所細胞などにより何時、何処で、何が起こったかを記憶に残すことが出来る。
海馬に残された短期記憶は前頭前野などの大脳皮質に神経新生により移され長期記憶として残す。大脳皮質の何処に何の情報が移されるかは分かっていない。
家庭教師が勉強内容30分のものを当日中に30分繰り返させ、同じ内容を1か月後に30分勉強させることにより短期記憶より長期記憶に移して受験生を全国模試1番にしたことがある。
ここのポイントは1か月後に繰り返させたことで、海馬より大脳皮質へ移される際には神経新生によるので、1週間では神経新生が出来上がっていない。神経新生は運動により活発化されるので、勉強をすると共に毎日ウォーキングなどの運動をすることが重要。また記憶は睡眠中に勉強された内容が繰り返されて固定化されるので、睡眠時間を十分とることも重要。キーワードは1か月後の繰り返し、毎日の運動、良い睡眠になる。
4.空間記憶を利用した記憶術
記憶術において最も利用されている方法は、例えば自分の家の玄関から食堂、リビングを通って自分の部屋へ行く順に置いてあるものを辿って記憶したい内容をこれに結びつけるなどの空間記憶を利用したものである。人間の脳は狩猟により食料を得ていた時代から空間記憶はエピソード記憶や習慣記憶より重要なものであり、それだけに空間記憶を利用した記憶術はより早く鮮明に記憶に残る効果的なものとなる。
短期記憶と空間記憶は同じ海馬でも別の部分を利用したものであるが、記憶術の達人は通常の短期記憶を空間記憶として覚える手段をマスターしていると言われている。
5.空間記憶を鍛える方法
細い街路を縦横に運転するロンドンのタクシー運転手はその運転経験が永いほど海馬は大きくなっているという報告があるように、一般の歩行者が道を歩く際に、日々路地などを利用して出来るだけ異なる通路を歩くように心掛ければ視空間記憶は強化されて海馬を鍛えることが出来る。言い換えれば日々同じ道を辿って歩く人々は認知症になりやすいとも言える。
6.嗅内皮質・海馬を鍛える方法
嗅内皮質を鍛える方法としては、アロマなど利用して臭いの感覚を鋭敏にする。海馬を鍛える方法としては出来るだけ空間記憶を利用して物事を記憶する訓練を行う、街を歩く際には路地を選んで日々異なった道筋を辿ることなどが効果的になる。
|